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11月のしつらい  冬至





『 陰から陽へ、 一陽来復 ‥‥‥ 冬至祭』                           


                            今江 美和子


                                    

冬至点を測る


 冬至とは、天文学では太陽の中心が冬至点(黄道上で春分点から270度離れた点)を通過する現象およびその時刻をいう。現在のグレゴリオ暦では、だいたい12月22日に起こる。一年中で太陽が天の赤道よりも南に離れるために、北半球では太陽の正中高度が最も低くなり、昼間が最も短く夜が最も長い日となる。東京では昼間が9時間25分、夜が14時間35分ぐらいである。

 太陽が天の子午線の上にくることを「正中」(むかしは南中といったが、北の子午線上にくるときも南中というのは不都合なので、現在は正中と呼ぶ)といい、冬至の日に正中高度が最も低いということは、正午における太陽の位置が最も斜めになっているということである。そこで地面に棒を垂直に立てると、冬至の日の正中の太陽の位置が最も斜めになっているということである。そこで地面に棒を垂直に立てると、冬至の日の正中の太陽による棒の影の長さは最も長くなるわけである。

 

 中国ではこの原理を用いて冬至の日を測定した。観測に使う棒を周髀または表といい、周の時代(前1,050〜前256)には周髀の高さを八尺と定めた。


 中国の古い天文書に『周髀算経(しゅうひさんけい)』という書物がある。周公と宰相の商高との対話によって書かれ、次のように記されている。

 「周髀の長さ八尺、冬至のとき日影一丈三尺、夏至のとき日影一尺六寸、髀は股、正影(真昼の日影)は勾」  

          

 このことにより、冬至および夏至のときに影の長さを測ったことが知られる。さらに

 「髀より日の下に至る六万里、而して髀の影なし。此れより以上日に至れば則ち八万里、髀より日に至る一○万里」 

 「矩(定木)を折り、以って勾の広(ながさ)三、股の修(たかさ)四、径(弦)の五を為(つく)る」とある。


 これは、直角三角形の直角をはさむ短い横の辺を「勾(こう)」、長い縦の辺を「股(こ)」斜辺を「弦(げん)」といい、三辺が3、4、5 となる直角三角形の直角の事を述べたものである。その相似形として、6万里、8万里、10万里の距離を知ったのであろう。


 数学で有名なピタゴラスの定理は「勾股弦(こうこげん)の法」と言われるもので「勾・股をそれぞれ二乗したものの和と、弦を二乗したものとは等しい」というものである。

 日本で最初にピタゴラスの定理を述べたのは、吉田光吉の『塵劫記』(1,627年)であるが、証明を記したのは沢口一之の『古今三方法(ここんさんぽうほう)』(1,670年)である。


長さの「尺」度


 さて、周髀の長さ八尺とあるが、「尺」は曲尺(かねじゃく)の30.3cmではない。

「尺」という字は手を広げてものを測る形の象徴文字であり、手を広げた親指の先から中指の先までの長さをいう。それはちょうど、指十本の幅と同じになる。

 現在「尺」といえば曲尺で、30.3cmをいうが、周の時代には小尺と大尺があり、小尺は婦人の指十本の幅を単位として「咫(し)」といい、大尺は男子の指十本の幅を単位として「尺」といった。咫は現在の18㎝、尺は22.5㎝ほどにあたる、すると八尺は小尺ならば1m44cm、大尺ならば1m80cm、だいたい人の背丈ほどである。


冬至と立春正月


 八尺の周髀の影が最も長くなる日=冬至の日の測定は非常に難しい。冬至の頃の日々の影の長さの変化が小さいからである。したがって古代では冬至が一日か二日誤って決められることもしばしばあったことと思われる。

 冬至の日は太陽が最も斜めに照らす日であり、昼間が最も短いために最も弱い太陽となるわけである。陰極まれば陽萌す原理で冬至のとき最も弱い太陽は、冬至から後は次第に昼間が多くなって光と熱を増してくる。そこで、冬至は陽が兆す一陽来復の日として、未来への

希望をつなぐ陽とされたのである。

  

 冬至が太陽の復活を意味し、そこから次第に日照時間が多くなっていくことは確かであるが、しかし「冬至冬中冬初め」といわれているように、気候の点からいって、暖かさは冬至から復活してくるわけではない。気候からいえば、暖かさの復活点は立春である。

 地球が太陽の熱を受けて吸収し、そのため、あたたまるのに四五日ぐらいかかり、冬至のとき最も少なく受けた熱の効果は立春の頃に現れるので、立春が最も寒いということになる。陰極まれば陽萌す原理で立春で寒さも峠を超え、これ以上は寒くもならず、暖かさが増してくる。立春はいわば暖かさの復活点といえる。そのため、漢の武帝のとき、年の始めを冬至から立春に改めるようになった。この立春正月の思想は日本にも受け入れられ、日本で用いられた太陰太陽暦は持統天皇六(692)年の元嘉暦から仁徳天皇の天保十四(1,843)年の天保暦に至るまで、すべて年始は立春となった。


しかし原理的にいえば、太陽の復活は冬至であるために、暦を作る上で冬至を基点とすることが必要であり、中国では天子は観象授時といって暦を作って人民に授けることが重要な任務だったので、冬至の日に天を祭る厳守な儀式を行ったのである。

 冬至は陰陽が交差する分岐点なので、陰陽の定まるまで静かに待ち、人々は一切の仕事をやめて休憩し、旧年の邪気を払って太陽の復活とともに新しい生活の門出とした。 


冬至の太陽の動きを見る


冬至は夜が最も長く、昼が最も短い日であると述べた。それでは、冬至は日の出が最も遅く、日の入りが最も早い日なのだろうか。

答えは否である。その理由を調べてみたい。

 現在、私たちが一日といっているのは、地球が太陽に対して一回転する時間で、それが24時間であるということを知っている。しかし真の一日は24時間ではなく、それより短いことも長いこともある。最も短いのは9月17日ごろで23時間59分39秒、最も長いのは12月22日ごろで24時間30秒である。 一日がこのように一定していないのは不便なので、一年間の平均をとった一日を平均太陽日といい、それが私たちの日常用いている「一日=24時間」である。


 それでは、なぜ真の一日が一定していないのだろう。

 太陽の通る道=黄道が赤道に対して23・4度傾いているために、太陽の速度が一定であっても、黄道上の太陽が赤道に近い春分や秋分の頃には、真の一日が平均より長くなる。

 次に、地球が太陽を焦点とする楕円軌道を公転しているために、ケプラーの定理(面積速度一定)より明らかなように、地球の公転速度は地球が太陽に近い一月ごろが最も大きく、太陽から遠い七月ごろ最も小さくなる。したがって黄道上の太陽の速度は相対的に一月ご

ろが最大、七月ごろが最小となる。以上の原因を合わせて、真の一日の最も短いのが12月22日ごろとなるのである。

                  

 こうして真の一日と平均太陽日との差が積もり積もって、日の出、日の入り二時間差がで

きる。この真の一日と平均太陽日との日ごとの差を合計したものを「時間差」という。

 さて、冬至は真の一日の日の出は最も遅く、日の入りは最も早いのだが、均時差があるために平均太陽日では冬至の日に日の出が最も遅く、日の入りが最も早くならない。均時差のために日の出が最も遅くなるのは1月6日、日の入りが最も早くなるのは12月6日ごろである。

 同様に、日の出が最も早く、日の入りが最も遅くなるのは夏至の日ではなく、日の出の最も早いのは6月12日、日の入りの最も遅くなるのはと6月30日ごろである。しかし、昼が最も長く、夜が最も短いのが夏至の日であることは正しい。

 要するに、冬至は昼が最も短く、夜が最も長い日であるが、日の出が最も遅く日の入りが最も早い日ではない。

 「冬至から畳の目ほど日が延びる」とは、冬至をすぎると少しずつ日あしが伸びて日の長くなることをいい、「冬至十日は日の座(すわ)り」とは、冬至後の10日間は太陽が座り込んでしまったように日が短く感じられるということである。立春の頃には冬至より47分、日照時間が長くなる。

 また、「冬至10日たてば阿呆でも知る」というのは、冬至から10日も経つと、めっきり日の長くなることがわかるという意味であるが、もう少し深く考えてみると、日の入りの時刻に関係のあることがわかる。


 冬至が日の入りの最も早い日であったとしたら、10日たっても日の入りは1分ぐらいしか遅れないので、前日に比べて日が長くなったことはほとんど感じない程度なのだが、日の入りの最も早いのは12月6日ごろであるから、冬至後10日もすれば日の入りは10分以上遅れてくるので、誰でも日が長くなったことに気がつくという意味である。


【冬至】……11月度の感想

 冬至の日、太陽は日の出、日の入りの頃、最も南に位置し、北半球では一日の長さは最短になるとのこと。ただ視点を変えると、冬至を起点に、昼の長さは復活するかごとく長くなり、再びはじまりを迎える時でもあります。                            

 日本だけでなく世界中では、冬至を復活の日、再生の日、太陽の復活、あるいは誕生の日として、多くの行事、祝う習慣があるとのこと。 

 ものごとは、行く着くところまで行くと一転し、再び始まる、再生するという理を学ぶ機会でもあると思わせられます。             今月も誠に有り難うございました。



『陰から陽へ、一陽来復 ・・・ 冬至祭』
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